鬼平犯科帳(十九)

双肌をぬぎ、太やかな腕を剥き出しにして、せっせと桶をつくる働き者のおろくは、息子の変事をきいて顔色が変わった。
「これ、どうしたのだ?」「うちの子が、勾引(かどわか)されたんでございます」叫ぶようにいったおろくが、平蔵の手を振り切って家を走り出た。
――幼児誘拐犯は、実の親か? 卑劣な犯罪を前にさすがの平蔵にも苦悩の色が……。
「霧の朝」「妙義の團右衛門」「おかね新五郎」「逃げた妻」「雪の果て」「引き込み女」の六篇を収めた力作短編集。
女は、いきなり甚助へつかみかかり、「何をしゃあがる」立ちあがった甚助に突き飛ばされると、「か、敵討ちの約束がまもれぬなら、わたした金を返せ、返せえ!!」白眼をつりあげて叫んだ。
逃げ廻る甚助に旧知の平蔵は助太刀をするが、事は意外な方向に展開して行く。
女心の奇妙さに、さすがの鬼平も苦笑い。
花も実もある鬼平の魅力――「助太刀」。
ほか「おしま金三郎」「二度あることは」「顔」「怨恨」「高萩の捨五郎」「寺尾の治兵衛」の全七篇収録。
大島勇五郎は、名前ほど勇ましくないが有能な同心だ。
しかし最近の動きがおかしい。
不審を感じた平蔵が、自ら果敢な行動力で兇盗の跳梁を制する「春の淡雪」、探索方から勘定方に戻されて、ふて腐れていた細川峯太郎が、非番の日に手柄を立て、再び探索方に立てられるまでを描く「泣き男」、浮気の虫が騒ぎ出した木村忠吾にも暖かく厳しい眼をそそぐ「麻布一本松」など、“仏の平蔵”の部下への思いやりをしみじみと描く慈愛溢れる六篇。
ファンに贈るこの一冊。
盗賊改方の水も洩らさぬ探索網により、薬種屋を狙った大がかりな押し込みは未遂に終わった。
しかし、安堵の空気もまもないころ、夕闇を切り裂いて疾って来た半弓の矢が、与力・秋本源蔵の頸すじへ突き立った――。
与力暗殺! 同じころ平蔵も襲われ、長男の辰蔵も命を狙われる。
そればかりか、盗賊改方の下僕にまで魔の手がのびる。
生涯の怪事件に苦悩し、追詰められた平蔵の胸に去来するものは……。
〈雲竜剣〉〈鬼火〉につづく感動のシリーズ長篇〈迷路〉。
夜鴉(よがらす)が鳴くのを聞いた翌日、おまさは旧知の盗賊・峰山の初蔵に声をかけられた。
「頼みがある。
荒神の二代目に力をかしてもらいたい。
二代目は女だ。
先代の隠し子さ」――荒神の先代に世話になったおまさの心が騒いだ。
初蔵には得体のしれないところがある。
そして二代目はどんな女なのか……平蔵の亡父・宣雄の隠し子(お園)と盗賊の隠し子(二代目)がからんで、事件は複雑な様相を呈してゆく! 長篇〈炎の色〉と、お園が初登場する「隠し子」を収録。
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